犬も食わない

尾崎世界観千早茜による連作。

冷静と情熱の間みたいだけど、もっと庶民的で、退廃的ね。

ちょっと暴走気味なところもあるけれど、2人の文章がベースで似ていて、見分けるのが難しいと思った。切れるときのポイントとかも、なんだか相性がいい。

ありえないこともあるけど惰性で別れられないかんじがすごくて、なんかこのまま結婚する図も見えて来てしまうという。

言葉数の極端に少ないこういう男性の恋愛を主観で男性が書く小説ってあまりない気がするから、なかなか良かったです。

 

 

恋の幽霊

この人の分かりづらい文章が、どうしようもなく好きだ。自分の感性に響いてしまう。

人が人を思う気持ちの繊細さとか、変幻性とか、すくい上げてくれる。

読みやすさが、読者に対する目みたいなものが薄くて、とにかく自意識というか、主観だから好きなのかも。

恋するときの、熱があるみたいなおかしな状態を、こんなにも言葉にできてしまうんだなあって感動した。わけがわからなくなるかんじ。

脆弱で、頭でっかちな登場人物たちが愛おしくなる。

「いつから人間は、人と人との、自然というより社会的な距離を、物理的に他人と、とるようになるのだろう。それは一気に? じょじょにグラデして?」

「なにもいわない土におれのほうが、泣いてしまうよとおもった」

「そうとでも錯覚しなければ割に合わないぐらいに現実が、張り詰めていて」

「この瞬間のこと。忘れらんないのに忘れてた。おぼえてないのにおぼえてた。矛盾してる、その両方。その中間。忘れられないのにおぼえてなくて、おぼえてるのにわすれてて、おぼえてないのに忘れてなくて、忘れてたのにおぼえてた。」

「恋をしてるとき、ひとのぜんぶの感情は嘘だし、ぜんぶの言葉は嘘だって、そのあとにいやってほど、おもいしらされることになる。」

「わたしたちはただ感動してただけ。感動してるときってほかのことはぜんぶ嘘だ」

「記憶とは体力なのだと、沙里との日々のなかで思う瞬間がよくあった」

「無理になにか装おうとしたら、土の文体は壊れちゃうの」

「でも自分でも戸惑ってしまうぐらいうれしくて、ずっとあとまでその言葉を引きずって、たくさんのものを求めてはダメにしてしまったんだ」

「愛されていないことはなぜかすぐ人にバレる」

「おれたち、「いま」のなかでかがやけば、思い出の中でダサくなる」

「けど、こんなしあわせ、人類みんなくりかえしてる?」

「だけど人生、ほんとうにごめんっておもうときに「ごめん」って口にだすのはズルすぎる」

「おれは、ひとのやさしさを、奪ってただけの生涯だった」

「さびしいやつをすきになって、おれ、ほんとにさびしい」

「こうした滑稽さと真剣に向き合うことが恋なのだと、わたしはしった」

「やっぱり、ふつうに最低だよね?」

「好きだから突っ込めない」

モモ100%

これはとっても先鋭的。すごいなあ。

星野、めっちゃ好きになったな。

生き残り方だけを必死に探ってるかんじ、中学とか高校時代を思い出した。

 

「簡易瞬間接着剤的な恋愛」

るんるんで胸を切り裂いて、そのなかにラブを置いて、また左胸を縫った。私はそうしてラブを覚えたよ。男のヒトがすきだ。自分以外の世界人類が全員、男の人だったらいいのになと思う」

「たとえば男ふたりと女ひとりで一緒くたに結婚はできないものか」

「知らない男が知る男を超えるなんてことは、たぶん、一生ない」

「自殺を決めた人も、こんなふうに死んでいくのかな」

「戦いからフォールドするのが生き残る手段だったんだよ」

「生き残り方だけを知っていて、生き方を知らなかったんだよ」

 

シェニール織とか黄肉のメロンとか

シェニール織ていうんだって、知らなかった。私も持ってたハンカチの柄。

読む前から、信頼している著者。

年齢に応じた登場人物を書くかんじが少し憎らしいのだけど。最近の現代的な話題を織り交ぜていて、ああ新刊なんだって嬉しくなった。

理枝の性格が魅力的だった。一生懸命な人は、やっぱり愛おしいのだと思う。あいりちゃんもよかった。

「そりゃ行くわよ、いつだって、どこかに」

「途中で声をかけられて、逃すには惜しい感じの相手だったから」

「つまりね、あたしは社交的な内弁慶なの」

「まず相手がいて、その相手といっしょに生きたいと思うからこそ結婚するのではないだろうか」

「生きている男性はいてほしくないときにもいるし、いてほしいときにはいなかったりするものだ」

「夢だったのなら仕方ない」

「甘ったれってね、決して子供の特徴じゃないのよ」

「自分勝手なのに他人にもやさしいあの奇妙な性格」

「その計画は、とても理枝らしい。とてもとても理枝だ」

世界はうつくしいと

長田弘の詩集。

読んでると心が落ち着く。

大切なことを見失わないようにしたい。

ミミズクのような目をもつことができたらというのが、変わらない著者の夢だという。

「暮らしに栄誉はいらない。空の見える窓があればいい」

「世界を、過剰な色彩で覆ってはいけないのだ。沈黙を、過剰な言葉で覆ってはいけないように。」

「表現じゃない。ことばは認識なんだ。」「感情じゃない。ことばは態度なんだ。」

グランドホテルブダペスト

非常に良い映画だった。

なんといっても、セットがかわいい。おとぎ話みたい。色の使い方がすごく好み。

そして、グスタヴのキャラクターが愛おしい。超一流。とっても早口。でも好色。

監獄の衣装が最高だった。

サスペンス的なのにコメディで、師弟愛がとてもよい。

冬季退会のレース、とても笑った。

一流ホテルのネットワークもすごい。

女の子もきれいで勇敢。

ユニークで、あたたかくて、ドキドキして。ウェス・アンダーソンの、アステロイド·シティもみてみたい。

彗星交叉点

穂村弘のエッセイ、読んでないの、まだあったんだ!って、それだけで嬉しい。

普段の生活で気になった言葉とか、違和感とか、書き留めるようにしようと思った。

そういうところに、新しい発見がたくさん待ってるはずだって、信じさせてくれる。

こんなことがあったんだよって、どうでもいいのにしゃべりたい、みたいなことがたくさん。

穂村弘のエッセイは、なんだかラジオみたいだなって思うんだ。