静かな大地

池澤夏樹の、「静かな大地」を読みました。アイヌの物語。
最近「宝島」を読み返したばかりだから、南と北での葛藤に、少しだけ知識がつきました。
「静かな大地」もとても分厚い本だけど、池澤夏樹の確かな文章力に支えられて、じわじわと迫ってくるような重みがあって、気づいたら涙が流れてくる場面なんかもありました。少しずつ、未来を奪われていくアイヌと、和人との板挟みになって苦しむ兄弟の物語は、息苦しくも美しいものでした。
私は、「アイヌ」の生き方にはとても興味があって、人が自然を支配することができるとは考えないところとか、野生への憧れみたいなものがあります。
「私たちが二人だったこともある。一人の思いならば他人に別のことを言われると揺らぎもするが、仲のよい二人が話し合った考えはしっかりと立つ。私と兄は、あの時に鍋焼丸の甲板で、初めて見たアイヌに憧れた。」
「山やら川やらに持ち主がいるか?あの広い空に持ち主がいるか?」
アイヌは土地というのが取れるものだとは思っていなかった。刀と鉄砲で取れるものだとは考えもしなかった。そういう考えが頭に浮かばなかった。だから、最初から負けていたのだ。」
「身体はなかなか死ぬものではないが、その前に心が死ぬ。世間からもうおまえは要らぬと言われると、そうかと思って心は死ぬのさ。」
「総じてアイヌは言葉の民である。~アイヌの場合は言葉の力、物語る力がぬきんでていた。そうでなくてどうしてあれほどのユカァ、無数のウウェペケェ、さまざまな神や英雄や動物や美女や悪党の物語が残せるだろう。」
「火の中に入れなかった、と兄はかすれた声で言った。シトナが飛び込み、おまえも、若いニプタサも行ったのに、私はあの場にへたり込んで動けなかった。それだけ言って、兄は泣き出した。声は出さない。ただ両の目からかぎりなく涙が流れた。私はそれ以上兄に何も言えなかった。」
「私は心が石になったように、何も感じなかった。」