空白を満たしなさい

死者が生き返るというありえない設定を、どこまでもリアルに描いた作品。タイトルとテーマが秀逸。理由のない自殺を、一生懸命探っていくのがおもしろかった。
「分人」の考え方は、とてもよくわかる。自分をまるごと愛さなくていいから、その人といる自分を好きになれるような相手を大切にすること。
生きたいと願いながら死んでしまうこと。
誤った自分を消したくて、まるごと自分を殺すしかないと思ってしまったこと。
疲労の話も興味深い。人生の幸せな出来事の多い30代に自殺が多いこと。
一緒に生きていく人を大事にしたいと思った。


「殴ったのは相手の顔だったが、本当は、言葉そのものを殴りつけたかった。」
「別に死体を見たわけでもなく、ただ「死んだ」と言葉で伝えられただけで、この人の中で、自分は唐突に「死んだ」のだった。」
「拒んで当然だって、そんなふうに思ってほしくない。」
「我々はいつでも、癒しを与えることを急ぎすぎ、自分の住んでいる世界を憎悪から守るのに必死で、他者の苦悩を尊重することを忘れがちです。」「苦悩を否定された人間は、悲劇的な方法で、それを証明するように追い詰められます。」
「自分を誤解されることは、苦しみではないですか?」
「死は傲慢に、人生を染めます。」
「何をしたかというより、したことのうちで、何が目立ったかの問題です。」
「人生には、そんなに同じことが何度も起こるわけじゃない。」「その1回に何をするのか、それがその人ということなんじゃないでしょうか。」
「各駅停車の電車のつもりで、実は終点まで止まらない特急電車に乗ってた。そんな感じがするんです。気がつけば終点でした。」
「分人同士で見守り合う。」
「できるだけ痛ましい死体になりたかった。」「ただ自分の内と外が裏返しになって、傷ついた内側が外側に露になりさえすれば良かった。」