ほんのこども

町屋良平の最新作。
新境地すぎて、いつもにも増して難解。
難解すぎて、ついていけなくて、それでもことばのきらめきだけでも追ってしまう。
人称への執着がすごい。
文学に、筆者がのみこまれてしまいそう。

「いっしゅんは、誰かにころされたのだと思う、しかしすぐに、だれかをころしてしまったのだと思い直す、その両者をえんえん交通するような。」
「かれは自らの舐めた態度が恥ずかしかったのに、成長するごとにますます色んなものを舐めたままおそれていた。」
「やさしい行いを完全に放棄すると途端に何をしてよいかわからなくなるのが私たち人間だった。」
「よろこびを表現する術も資格もないと、いつもムスッとしているこのころのあべくんの胸中にいっぱいのよろこびつまっていただなんて、だれが予想しただろう。かれにはたしかなよろこびの才能があった。」
「私なんでだっけ?」
「制度とか、歴史とか、自分たちを守ってくれないものばかり、せっせと守ってしまって。」
「発明的な発声に感動。すくなくとも映画や漫画であるような命乞いとはぜんぜん違うし、つねにそうしたフィクションの裏面にある叫びをどう表現してもつたわらない。」
「この現実にとって法外であることは物語にとっては合法であるといってよい。」
「無垢には戻れない。そのように、かっこよくなってしまったものからかっこよさを引いていくのは淋しかった。」
「幸福なのに、だれも「幸福だね」って認めてくれない。べつにいいけど。」
「どうして皆、こんなにフィクションぽく生きているのだろう。」
「小説家として、言葉にとどまる勇気と覚悟が足りていないんだよ。」
「警察とか法律に捕まるのではなく制度や情緒に捕まる。」
「人を傷つけることは平気だったが、人を傷つけたとわかると自分が傷ついた。」
「少なくとも私は生きていてずっと恥ずかしかった。」
「ねえ、この人生で、会話なんてできたためしが一度でもあった?」
「生まれないで、生まれない私を返してよ。」
「言葉でいわないで風景を見せてよ。」