恋の幽霊

この人の分かりづらい文章が、どうしようもなく好きだ。自分の感性に響いてしまう。

人が人を思う気持ちの繊細さとか、変幻性とか、すくい上げてくれる。

読みやすさが、読者に対する目みたいなものが薄くて、とにかく自意識というか、主観だから好きなのかも。

恋するときの、熱があるみたいなおかしな状態を、こんなにも言葉にできてしまうんだなあって感動した。わけがわからなくなるかんじ。

脆弱で、頭でっかちな登場人物たちが愛おしくなる。

「いつから人間は、人と人との、自然というより社会的な距離を、物理的に他人と、とるようになるのだろう。それは一気に? じょじょにグラデして?」

「なにもいわない土におれのほうが、泣いてしまうよとおもった」

「そうとでも錯覚しなければ割に合わないぐらいに現実が、張り詰めていて」

「この瞬間のこと。忘れらんないのに忘れてた。おぼえてないのにおぼえてた。矛盾してる、その両方。その中間。忘れられないのにおぼえてなくて、おぼえてるのにわすれてて、おぼえてないのに忘れてなくて、忘れてたのにおぼえてた。」

「恋をしてるとき、ひとのぜんぶの感情は嘘だし、ぜんぶの言葉は嘘だって、そのあとにいやってほど、おもいしらされることになる。」

「わたしたちはただ感動してただけ。感動してるときってほかのことはぜんぶ嘘だ」

「記憶とは体力なのだと、沙里との日々のなかで思う瞬間がよくあった」

「無理になにか装おうとしたら、土の文体は壊れちゃうの」

「でも自分でも戸惑ってしまうぐらいうれしくて、ずっとあとまでその言葉を引きずって、たくさんのものを求めてはダメにしてしまったんだ」

「愛されていないことはなぜかすぐ人にバレる」

「おれたち、「いま」のなかでかがやけば、思い出の中でダサくなる」

「けど、こんなしあわせ、人類みんなくりかえしてる?」

「だけど人生、ほんとうにごめんっておもうときに「ごめん」って口にだすのはズルすぎる」

「おれは、ひとのやさしさを、奪ってただけの生涯だった」

「さびしいやつをすきになって、おれ、ほんとにさびしい」

「こうした滑稽さと真剣に向き合うことが恋なのだと、わたしはしった」

「やっぱり、ふつうに最低だよね?」

「好きだから突っ込めない」