池澤夏樹の短編集。
音読して読みたくなるくらい、きれいな文章。恐ろしいほどの知識と、絶対的な安心感がある。
特別に好きだったのは、アステロイド観測隊と、北への旅。
アステロイド観測隊は、機知にとんでいて、わくわくして。少しまぬけで、現実的な問題がよく分かる。社会とのつながりなくして、科学はないのだ。
北への旅は、たった一人でしかでてこないのに、ロマンチック。ラストがうつくしくて、胸を打つ。完璧な短編だと思った。
「そういう船が私の中に沈んでいることを夫はまるで知らないだろう。」
「彼らにとっての唯一の落とし穴が、野心的かつ攻撃的な天文学者というわけだ。」
「彼は死んでしまった世界全部のために、あと数日で死ぬ自分のために、失われたすべてのクリスマスのために、今はもうどこにもいない六歳の子供のために、そこに坐り込んで、肩をふるわせて、夜ふけまで泣きつづけた。」
「そんなにいつまでも続くはずがないという気がする。」
「このまま食べて住んで楽しんで、温かい思いの日々を重ねていたら、段々に狂うような気がする。」