いしいしんじの短編集。
唯一無二の観察眼と、世界に対する表現力を持った人だなあと思う。
そして、地理感覚にも優れた人なのだろうと思う。
一瞬で、見たことのない世界に連れて行ってくれる。
「ティムは、ティムだけが知っているやりかたで、その土地まで兄を連れて行こうとしている。」
「光のとどかない深海を真上からかぶせたみたいな夜空のもと、俺たちは育った。」「川面に反射する冬の光の声、姿を見せずに啼くルリビタキの声、朝露の声、少しの間溶けないまま毛皮にとどまる雪の結晶の声だった。」
「俺は、自然と、きこえてくるもんだけでじゅうぶんや」
「ご自身じゃ気づきもしないまま、その瞬間の自分を、別の目を通して読んでらっしゃる。」
「ね、ひとは誰でも、ページ数を知りようのない、一編の小説なんですよ」
「しんじの頭のなかは集中爆撃を受けたあとのように穴ぼこだらけだった。」
「私は長い旅の終わりの場所に膝をついて祈っているような気がした。」
「流星が成層圏で燃えあがる音。ぼくは顔をあげ、そして見たんだ。ユリシーズが飛んでいくのを。黒い雑種犬、オデュッセウスが、真っ黒な尾を夜にふりたて、古代からの星座みたいに夜空を駆けぬけていくのを、ぼくは見たんだ」
「日本の都市には土がないのと同じく空がない。それでやっていけるところが、逆に、人間の凄みだ、という気もする」