雪船えまの歌集。
天才的にかわいいときがある。
病的にかわいい。
「恋びとのうそと故郷の羊肉が星の散らばる新居に届く」
「おまえよく生きてるなあと父がいうあたしが鼠にいったことばを」
「もっとも旅にみえないものが旅なのか目覚めて最初に見るぬいぐるみ」
「もう歌は出尽くし僕ら透きとおり宇宙の風に湯ざめしていく」
「春の雨 村上姓は素敵だと気づき村上さんに言いに行く」
「寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいる」
「すきになる? 何を こういうことすべて 自信をもってまちがえる道」
「ごはんって心で食べるものでしょう? 春風として助手席にのる」
「うれいなくたのしく生きよ娘たち熊銀行に鮭をあずけて」
「セックスをするたび水に沈む町があるんだ君はわからなくても」
「雪の日も小窓を開けてこのひとと光をゆでる暮らしをします」
「あけび色のトレーナー着て行かないで事故に遭うひとみたいにみえる」
「ぜんぶ忘れて似合う服を着ていたい次にあなたの前に立つとき」
「焦げたのはほかより夢が多かったややいさみあしのクッキーでした」
「見えますか食べものを出しっぱなしのテーブルあれが北海道です」
「たんぽぽがたんぽるぽるになったよう姓が変わったあとの世界は」