なつのひかり

少しファンタジー要素の強い江國香織の長編。

童話のようなものが得意なのも頷ける。

そして、いたるところに江國節がきらきらしている。きれいで切なくて、かなしくて、一言で刺しにいくような鋭さがある。

重婚とか、けっこう斬新。

 

「このごろ、私はすぐ途方に暮れてしまう。」

「青白くて線の細い、悲愴な張りつめ方をした兄の横顔は、私にもいつも、ウィーン少年合唱団を連想させる。」

「兄の微笑みは、まるでたとえばロシア革命の、シベリアに送られる同志に挨拶するときの、理解と愛とに溢れたしずかなそれだった。」

「この人は一体なんだって、ひとこと言うたびにばかみたいに微笑むのだろうか。」

「空が少しずつ色を変えていく、その音まできこえてきそうだった。」

「一種神々しいおおらかさが洋一にはあるのだ。それは、やさしさに限りなく似ている。」

「この人は俺を愛している。それは確かだった。そして、俺はこの人を愛していない。」

「春の日、私たちがまだ家族みたいだった頃」