旅が好きです。
旅をすることで、世界が見える。
地図の上の世界ではなく、想像の中の世界ではなく、本当に、ひとびとが生活しているという事実が見えるのです。例えば、インドのラッシー屋さんのお兄ちゃんや、ラオスの僧侶の姿とか、アルゼンチンのタンゴの踊り子とかね。
そして、旅先で人々が暮らしているという事実を目の当たりにすることは、自分にもそういう人生があり得たのだという事実と、それと同時に自分はこれからそういう人生を選ぶ権利を持っているのだということを認識する事に他ならないと思う。
そのことが、自分の生活を一層つまらないものにするし、一層愛おしいものにもしてくれる。つまり、自分の持っている、厄介な暮らしはいつでも手放せるけれども、だけど手放さない理由が見えてくるのです。
浮いていたいと思う。
本当のところは、地に足なんかつけたくない。
田舎に行くと、人間関係ががんじがらめで、逃げ出したくなる。
いつも見られているなんて、息苦しいですね。
それにね、何でも知ってるようにふるまわれるのは好きではない。ひとが、他人のことを「何でも知ってる」わけないでしょ。あなたの前で、どれだけの言葉を飲み込んできたか、何にも知らないんだね。
ふわふわと。ゆらゆらと。漂うように生きて行けたら。
「私たちもまたどんな世界にでも自由に入っていくことができ、自由に出てくることができる。出てこられることが保証されれば、どんなに痛苦に満ちた世界でもあらゆることがおもしろく感じられるものなのだ。」(沢木耕太郎「深夜特急2」より)