わたくし率イン歯ー、または世界

圧倒的な才能を見せつけられている感がすごいなあ。芥川賞にふさわしい作品だと思った。怒涛のように言葉が溢れてきて洪水みたい。根本的な何かを揺るがすような力があるなあと思う。

ただ、川上未映子作品は、たまに登場人物が不自然なほど饒舌で、向こう側に筆者の顔がちらついてしまいます。別に悪いことだとは思わないけれど。

「医師の頭の先っぽがわたしの奥歯にあたって、ある達成がどんときらめいたような気がしたんですが、それは激しくもあまりにも短くてよくわからないものでした。」「これからのことでなくてこれまでのことを思い出してしまうしかないものにはあんまり良いことは詰まっていない。」

「顔っていうのは、毎日毎日、必ず露出しているところだし、すれ違うだけの人にも、向かい合った人にも、誰にでもどこでも見せてるものだから、ほんとうに大事なところがおのずと薄れてくるのかもしれないなあと、思うのです。」

「人が大事にしている考えやものについては、ただしいもおかしいもないのです。」「まちがってるとか、まちがってないとかではなくて、ふたりにとって、とても意味のある物語の決定だと、書きますよ。」「そうです、わたしが呼び止めたいのは名前を呼ばれて立ち止まる、その青木ではないのです、名前やなくて、背中やなくて、セーターやなくて、わたしは青木のなかの私、をこそを呼びたいのに、それに名づけることは出来ないのです」

「人間のわたくし率こそ百パーセントであることのすごさ!」

「主語はないねん、こんな美しいことがあるやろか!」

「青木はちゃんと喋ってくれた、わたしにちゃんと喋ってくれた、一瞬やったかもしれんけど、どうしようもないわたしも私も消せるかもしれん方法を、青木はあのとき教えてくれた、わたしはないよ、この章には、私がないよ、こんな全部でこんな凄くてこんな絶対であるもんが、一瞬消えることがあったん、青木がそうやって教えてくれて、雪国の、初めを読んだらわたしも私もほんまに消えた、ほしたら雪国だけやなかったわ、そんな言葉がほかにもようさん図書館にはようさんあったわ、言葉は一瞬ぜんぶそうで、すうってほんまに消えるねん、すごいなって、思ってん、言葉ってすごいなって思ってん、一瞬、消えても、すぐに戻って来たけど、言葉は、言葉は、ありがとう、自分のそとに、ありがとうな、ありがとう、」

 

「子どものつもりであなたは世界を・あなたは作ってしまうのですね」