私の男

直木賞受賞作、「私の男」読みました。
ちょっと前に映画も出て話題になったかしら。

小説として、とても質の高い作品だなと思った。
構成が、素晴らしい。
第1章で主人公が結婚するところから、過去にさかのぼってく。
「回想」場面のある小説なんて沢山あるけど、この小説、全体としてまっすぐ過去に戻っていく。戻らないの。
それに、だんだん壮絶な過去が明らかになってくけど、でも、もうそれは1章の時点で全部わかってたような気もする。
それほどに、過去までなんとなく想像できてしまうほどに、結婚する主人公の描写が上手い。優美で、客観的で、深みのある描写。

物語の一番はじまり。
「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」
っていう一行からはじまって。

「私の男」ではない男との結婚。(こんな長いの引用するの初めてだ。)
「こういう男の人とだったら、絶望的に絡み合うのではなくて、息もできない重苦しさでもなくて、全然違う生き方ができるかもしれない。生まれ直せるかもしれない。不吉さの欠片もない、彼の若さそのものに安堵する気持ちもあった。わたしは、できるならまともな人間に生まれ変わりたかった。ゆっくりと年老いて、少しずつだめになっていくのではなく、ちゃんと過程を築き、子供を生んで育てて、未来をはぐくむような、つまりは平凡で前向きな生き方に、変えたかった。そうすることで、手ひどい過去までも、ずるく塗り替えてしまいたかった。そうやって自分を生き延びさせようとしていたのだけれど、いまこうして、こんな明るい場所にじっと座っていると、わたしのわたしそのものである部分ー見たことも触ったこともない、魂の部分が、ゆったりと沈んで、震えながら急速に腐っていくようにも感じられた。」

ね、想像できるでしょ。
そしてこのあと、読者に想像させた過去に決して見劣りしないような手ひどい過去が明らかになってく。

あとね、心に残った言葉。
「よそ者みたいなやつになるなって。ちゃんと、生きているその土地の人間になるんだ、ってさ。」
これ、私、苦手。

「線を引くことは、わたしたち人間には、難しい。」