ゲームの王国

小川哲のエンタメ小説。

上下巻あるし、やっぱり理屈っぽいけど、壮大でこの人にしか書けない物語。

哲学と科学、どっちもすごい。歴史も、神話も、物理も、政治も。

無数のアイディアが散りばめられてるような。くじ引き、のtvショーとかもありそうだし。

たくさんの登場人物たちによって、時代の流れと奥行きがあって。

残虐なことが、全然防げなくて、人があっけなく死んでしまったり。悪知恵を働かせてるやつはそれなりに生き残ったり。

そして、村の人たちの、わけのわからない主張の数々が、めちゃくちゃおもしろかった。ブラックユーモアというかなんというか。突然、説明が雑になったりするところも好き。

天才が、政治的な事態に追いつけないかんじとかもおもしろい。

世の中、ゲームのように理路整然としていない。

ラクションゲームも、賢すぎてついていけない感あったけど、最先端なのだろう。

「泣きだす理由には心当たりがあったが、泣きやむ理由には心当たりがなかった」

「チリトは絶望的に嘘が下手だった。嘘以外のあらゆる行為も下手だったが」

「三十歳で童貞ということは、狂人ということだ」

「これは三つ目の石で、お前が担当している石だ」

「輪ゴムは遊びではない」

「世界ではじめて水牛を家畜化した長江文明

「喋ることに理由が必要なのか、喋らないことに理由が必要なのか」

「世の中がうまくゲームのようになっていればいいんだけど、そういうわけにはいかなくて。ルールには矛盾がたくさんあるし、誰が勝者なのかもわからないし。ルール違反が放置されたりルールを守る者が損をしたり。現実は不潔だから」

「綱引きがすべて」

「頭に浮かぶのはそんなガラクタばかりだ。なんの意味もない。だが、自分が忘れてしまえば、世界にそういった瞬間が存在していたという事実は、永久に消え去ってしまうのだ。その事実の重みを感じる。家族が殺されたのだ」

「賢くなるとは、臆病になることだ」

「誰かが何かを思い出しているとき、その人はいったい何を見ているのでしょうか」

「概念が、概念のまま映しだされているんです」

「チャーハンとの話し合いにより自分はキリスト教に改宗した」「土と一体化したいため、火葬はせず、キリスト教式に土葬してほしい」

荒地の家族

芥川賞受賞作ですね。

とても静かで、寂しくて、なにもない小説。

東北の、口下手な中年の男の人が背負ってるもの、見せてもらった気がした。

主人公の見てる景色やこれまでの人生がが、ぼんやりとした情景として、目に浮かぶ。

「元の生活に戻りたいと人が言うときの「元」とはいつの時点か、と祐治は思う」

「生きている間の辛苦は本人と共有できるが、死は別だ。死だけは本人ではなく、側にいる人間が引き受け、近いほど強烈に感じ続ける」

ほかならぬ人へ

とても恋愛小説のイメージが強い著者。

直木賞受賞作なんだな。

どうしても、この人じゃなきゃだめなんだって、思える人がいるの、なんだか羨ましいような気がする。

自分では、どうにもならないのが恋愛かな。

未来の自分が今の自分を裏切るって感覚、よくわかる。結局、無理をするとどっかでひずみが生まれるんだろうな。

黒木の人間性、けっこう好きだった。嘘つきで勝手で凝り性で変態で有能、みたいな。

「結婚は一度はしてみるものだと思う。でも、長く続けるかどうかは人それぞれでいいんじゃないかと私は思うよ」

「だが、なずなは、いずれその選択を自分自身の手で裏切ることになるだろう」

「結婚なんてのは、とりあえずいまの自分で◯と思ってるときにするもんだ。俺やあの女みたいに何かを変えようとか、違う人間になろうとか思ってしちまうとろくなことはない」

 

田村はまだか

ゴトーを待ちわびて、的なかんじなのかな。

最初の1行で朝倉かすみだな、とわかる。

ユーモアもあって、少し感動もある。

短編集というかんじだから、長編また読んでみたいです。

「「チャオ」は、「おはよう」「こんにちは」「さようなら」などを兼ねる挨拶後だが、兼ねすぎでは、と、花輪春彦は思っている」

「小六でロンリーをやられたら、おれら、ちょっと、近づきがたいよな」

「田村は孤高な小六だったな」

「目に見えるもの全部に、ぱっと、きれいな色がついたんだ」

「青い星みたいな女の子がいいな」

「あたしってこういう子なの、と打ちだしたい「女の子」が見て取れる」

君たちに明日はない

とってもドラマ化しやすそうな小説だなあと思った。

首切りプロ集団という設定が斬新。

ポップでフラットで時に辛辣な文章が心地よいです。

今とは少し時代が違うけれど、仕事の中で生まれる不協和音がリアルで、こういう人いるなーってなりました。

「世の中にはこういう人間がいる。目に見えるものすべてを、ただ感じるだけの女」

「でも、あんな最低の野郎にも家族はいるし、たぶん最低でも人生はある。そういうことです」

「人間というのは、もし自分が不本意な状況にはまり、そしてその現状が長く続きすぎると、ついに性根まで腐ってしまうものなのだろうか」

「でもこれをやり過ごすと、おれの心のどこかが、潰される」

日記(2024年2月)

誰かに会いに行く、会いに来るというやりとりを、ずっと怠らないでいたい。

 

雪の中の3姉妹。

 

引越、手伝ってくれる人がたくさんいるのは幸せなこと。

 

ぽかぽかのお部屋でおいしいものをたくさん食べる。それだけで嬉しい。

 

知り合いからの飲み会を断ろうとか考えてたら、1時間も経ってる。少し情けない。

 

交通事故で奥さんを失った人の話を聞く。かける言葉もない。

 

一度会ったら友達。なんでも話せばわかるっていうような同期。

 

シャワーが冷たいだけで、こんなにも不幸。

 

久しぶりの友達にたくさん会う。ノンプレって素敵。何をしても許してもらえる気がする人たち。

貝を拾う。同じ模様は二度とない。

 

みんな、転機を迎えてる。報告できる人がいるのはいいね。

 

グリムのパン屋さん、ほしいときにいつもいない。

 

同時期に、同じようなことを複数回聞かれる現象。

 

遠くにいる友達が、死にたい気分でいること。せめて、言葉が届いたらいいなと願うこと。

 

もう、ずっと、ココロ、ココにあらず

 

物語に、命を吹き込めるようになりたい。

 

頭がかちわれるほど痛くなって、死がよぎる。

 

春みたいで、外を歩くだけで幸せ。

 

朝、よく眠って起きるだけでいい気分。

心のゆとりがあれば、なんにも怖くはないね。

 

自分がいなくなった後のことを想像する。

本当は、どうでもいいのに、気にするふりとかしてしまう。

 

空から、紺とオレンジと一面の雲の世界。あと、ぴかぴかの名古屋の夜景。

 

大きくなったらひつまぶし食べる。


飛行機から、たくさんの明かりが見えて、あの中で、たった一人に会いに行くんだなと思ったこと。

 

背中を押される言葉がある。

もっと、本気でぶつかってみたかった。

でも、自分が、頑張ってきたからもらえた言葉。

 

強くなりたいと思うこと。

一生懸命生きてみたい。

 

天気の良い日に散歩して、思ってもみなかた場所にたどりつく。

 

遊園地で酔うなんて、年をとった。

 

藤原基央が歌い続けているかぎり、生きていける。

 

愛してるって言えそうだった。

 

夜、帰り道で、手をつないで話をしたこと。

 

そういう自分は好きじゃないって、言っていた。何年も一緒にいても、初めてわかることがある。

 

人生でいちばんの恐怖体験。一夜明けたら悪夢みたい。肩の痛みだけ残ってる。

 

考えるべきことが山積みな一ヶ月。

 

ドラマみたいには、かっこいいセリフをくれない。

 

4年に一度の誕生日、おめでとう。

 

 

平場の月

ここ最近でいちばんのヒット。

タイトルからしてセンス抜群。

文体が独特で、唯一無二でかっこいい小説だなと思った。

心を持っていかれる何かがある。

文章が好きすぎてたくさんメモしてしまうな。

言葉にすることができないと思っていたものまで、空気とか、においとか、手触りとか、そういうものまで伝わってくる。

間違いなく、私の中の傑作。

 

「小さな顎を少し上げ、不敵というか、満足げというか、堂々たるというか、そんな笑みを浮かべていた」

「息が詰まった。顔とからだの動きが止まった。罠にはまり、網ごと釣り上げられたようだった」

「みっちゃんはおれの味方じゃなかったんだ」

「あそこの駐車場のあのあたりをわたしの領土としたんだ」

「「夢みたいなことだよ」須藤は自分自身をもてなすように微笑し、繰り返した。「夢みたいなことをね。ちょっと」

「四人でその場しのぎのようなやり取りを数珠つなぎにしていったり、恥ずかしそうに「バイバイ」と声をかける女子に「バイ!」と片手をあげて応えたりするのがたいへん楽しく、それであらかた満足していた」

「それはいま発表することか?おれの生検の話題を横取りしてまで言いたいことなのか?」

「仕事が終わって、自販機でガチャコンってミルクコーヒー買って、飲みながら家までぶらぶら歩いて帰るんだ。甘みが喉を通っていって、よそん家の洗濯物や、自分の影や、空の具合や、風の行き先や、可愛いチー坊を眺めると、ちょうどよく幸せなんだ」

「どうというわけではないよ」

「いま抱えてるちょっとした煩わしさが寄り集まって、雨雲みたいに広がって、湿気ったきもちになったりするんだよ」

「須藤は、たぶん、ほんとはもっとやさしいことをやさしく言えたらいいのに、と自分自身を歯がゆく思っている。きっとそうだ」

「ほらな。須藤はそういうやつなんだ」

「夜中に思い出して、うわーって叫びたくなること、ある?」

「おれは付き合ってもいない女とサシで家飲みするおれを見たくないんだ。おとなしくおままごとあそびをしているようなおれも、虎視眈々とギラついてるおれも、イケそうだったらイってみますかと余裕ぶっこいてるおれも、想像しただけでイーッてなるわ」

「愚痴を聞かされるだけと知っていても,ついヤッソさんと飲んでしまうのは、まったく公平ではない視点でもって物事を捉え、ひとり勝手に僻んだり傷ついたり怒ったりするヤッソさんの心情が染みるからだ」

「空すら見たり見なかったりの」

「余計なことを饒舌りそうだ、と思う間もなくくちが動いた」

「とにかくぜんぶ、世界でいちばんいいと思った」

「昔、駄菓子屋に売っていた、短いストローでふくらます、虹色の風船みたいな好意がふたりのあいだで呼吸していた」

「今回の検査結果で、希望をたっぷり染み込ませた綿を手に入れたような気がした」

「ウミちゃんが事実認定したストーリーの中で生きているわけじゃない」

「青砥の内側で、須藤は損なわれなかった。それが愉快だった」

「がんということを一瞬忘れるくらいに。」「絶対に忘れないんだけど、そんなふうに」

「胸を張れよ、青砥」

「気がかりみたいばヤツが、どこからともなくワラワラ集まってきて、そのうちの一個をつまんでみた、って感じ」

「だれにどんな助けを求めるのかはわたしが決めたいんだ」

「日本一気の毒なヤツを見るような目で見るなよ」

「おれは「日本一気の毒なヤツ」を見てるんじゃないんだよ。おまえを見てるんだ。はっきり言って他人なんかどうでもいいわ。お前が辛いのが辛いんだよ」

「そっちのストーリーに寄っちゃいけない」

「おまえを引きずり込もうとするやつ。お前を縛り付けたいやつ」

「わたしは青砥に助けを求めることにしました」

「ルートは見えていた」

「たぶん愛情というやつだ」

「須藤の受けた現実の重さというものを思ってみた」

「それ言っちゃあかんやつ」

「おれ、みなしごになったんだぜ」

「須藤はこの世にひとりしかいない」

「合わせる顔が、ないんだよ」