冷静と情熱のあいだ

最近の私は、江國香織フィーバーだ。
なんて幸福な読書の時間。キャラメルショコラのミルクティを、お気に入りのマグカップに入れて、ページを進める。
この人の書く文章が大好きだ。
冷静と情熱のあいだ」は、辻仁成との共同作品。とても、良い。この人たちの文章の書き方には、責任が感じられる。途中で読者を放ったらかしたりせずに、納得がいくように丁寧に丁寧に書いてくれて、置いてきぼりにならない。
いつも、冷静と情熱のあいだで、わたしたちは揺れている。それはしばしば、未来を見据えての計画的な行動と、瞬間としての衝動との戦いでもある。
ずっと、考えてること。
でも、この小説では、過去というものの捉え方についても、深くメスを入れている。

「もう、縛り合うような恋愛だけはしたくないから。」
本を買わない。「読みたいだけで、持ちたいわけじゃないもの。」「所有は最悪の束縛だもの。」
「歴史を守るために、未来を犠牲にしてきた街」
「つねに相手を理解しようとし、それ以上に理解されたがってた。」
「肉体と気持ちが目に見えないところで小さく分断されているのだった。」
「ミラノの方は世界で一番綺麗なドゥオモで、フィレンツェの方は世界で一番素敵なドゥオモだって」
「彼女の健康と不健康を、やさしさと身勝手を、勤勉と怠惰を、好きだなと思う。」
「僕はきみの人生に、まるで影響しないんだ。」「言われたのではなく、言わせてしまったのだと知っていた。」
「どこにあるのか分からないものを労る方法をぼくはまだ知らない。だから、考えてみたら、ぼくはずっと心が痛んだままそれをそのままにしてきた。」
「苦しい時に誰かに頼ることができない人だった。いつも自分一人で決めてしまう芯の強さがあった。」
「甘やかされることへのいらだち、許されていることへのいらだち、そして、傷つかれていることへのいらだちだ。」
「どうしてなんだ。どうして閉じこもる。責めてるわけじゃない。ただ話してほしいだけなんだ。」「その瞬間、私は完璧に理解した。私はこのひとをうしなうのだ。」
「過去しかない人生もある。忘れられない時間だけを大切にもって生きることが情けないことだとは思わない。もう戻ることのできない過去を追いかける人生をくだらないとは思わない。みんな未来ばかりを語りたがるが、ぼくは過去をおろそかにすることができない。」
「きょうここに来ることを、いつ決めたのかと訊かれれば、十年前にとこたえるほかない。」