宝島

この本、初めて読んだ時、ほんとすごいと思った。これだけのボリュームを、ずっと風が吹いてるみたいに、情熱を絶やさずに言葉にできる人がいるんだと思った。それも、フィクションとノンフィクションをごちゃまぜにしながら。時代背景とか、そういうのはある程度忠実に、だけど物語としてのおもしろさは自ら創り出している。それでいて、社会問題だったり、人の感情だったりと、絶えず読者になにかを訴えかけている。
もっとすごいのは、この人が沖縄のひとじゃないってことだ。沖縄の魂が、言葉ひとつとっても、こんなにも込められているのに。沖縄の人々の歓びや哀しみや諦めや怒りや、誇りや、懐の深さ。沖縄の歴史が形作ってきた、目に見えるものや見えないもの、大いなるものたちが、こんなに豊かに言葉にされているのに。小説というものの、底力を見たような気がして、ほんとに嬉しかった。

「世の中のあらゆるものは深いところでつながっていて、歳月や距離を越えてたがいに共鳴しあう。」

「砂浜に立ちつくすオンちゃんの面差しは、海と陸を照らす光に映えて、見るものの胸が痛くなるような輝きに包まれていてさ。」

「グスクが踊るのは、前途の多難さを予感していたからだった。
グスクが踊るのは、塀の外にひろがっている運命に負けまいとしたからだった。
グスクが踊るのは、もう踊るまいとちかったからだった。」

「グスクはもう、基地の金網を破らない。」

「子どもってのは、ほんとうに大粒の涙をぽろぽろとこぼして泣くんだなとグスクは思った。」

「恫喝と懐柔のチャンプルー。片手で撫ぜて片手で殴ってくるような仕打ち。それらはアメリカーの常套手段だった。」

アメリカーが、日本人が、この島でどんなに愚かなことをしてきたか、ふたつの国が奪っていった故郷の宝がなんなのかを叫んだ。ここから返還の日までは、新しい時代を迎えるまでは、どれだけの人を愛せるかの勝負だ。」