アイスネルワイゼンは、嫌なお話なのだけど、積み上げ方みたいなのが上手で、巧みに描かれてる。
人の精神がじわじわと崩壊していくかんじ。
口悪かったり、バカにしたり、嘘ついたり、踏み外したりして、わけもわからず消耗されていく。生活は、重い。
あきちゃんも、嫌なやつなんだけど、途中ではっとしてからの読み方が違って見えておもしろかった。
「もう、持てません」
「アキちゃんを知り尽くすわたしはアキちゃんを知らない人に教えてあげることもできる。気をつけて、アキちゃんがそこにいるから、身を隠しなさい。それから逃げなさい、できるだけ遠くへ、見つからないようにね」
「そしてその柔和でほのぼのとした石川くんの顔とアキちゃんの邪悪な顔をならべてみると、それは不似合いもいいところで、だいたいアキちゃんは男なのだから石川くんとつきあえるわけがないだろうに、この人はなにを言ってるんだろう、とあきれた」
「わたしはいろんなことがわからなくなっていた。アキちゃんが中学でどんないじられかたをして、どんなパシらされかたをしたか、男子にどんなひどいことを言われ、どんなふうにかばってもらえなかったのか、わたしには何もわからなかった」
「もしアキちゃんがアキちゃんの望む体で生まれていたなら、アキちゃんの人生はどんなふうだっただろう、と考えたとき、アキちゃんはすでにそれを何度考えただろうと、そう思ったのも、十八のころではなく、もっとずっとあとになってからで、そのときのわたしは何も考えなかった。いや違う、もっとずっと残酷なことを考えていたのだ」