ヘヴン

 川上未映子、ヘヴン。心動かされた。この人の文章には、負のエネルギーみたいなもので加速してく力があるみたいです。

 「いじめ」をとりあげてるんだけど、いじめられることで、人間のこころがどんなふうに変化してくかとか、そういうことを、丁寧に丁寧に描いてる。

それに、「いじめられる者」どうしの交流を描くというのは、斬新だし、温かい。

 

 全てに意味があるというコジマと、全てに意味なんかないという百瀬の、見事なまでの思考のすれ違いというか、ぶつかり合いが見事だ。

コジマは、最後キリスト教的考えに向かっていったなーと思う。

 

「机とか花瓶とかは、見た目には傷ついても、やっぱり、傷つきはしないように見えるもの。」「でも人間は、見た目に傷がつかなくても、とても傷つくと思う、たぶん」

「わたしたちは、いまでも十分物みたいなものなのだった」

 

「僕の目がすきだとコジマは言ったのだった。それを思うと胸がはっきりと痛んだ。うれしいような悲しいようなそんな痛みのなかで僕は動けないほどだった。

 

「学校で互いになにができるわけでもなかったけれど、僕がコジマの背中を見ることだけで、そこにコジマがいるだけで、何度も助けられたことを思い出していた。僕が教室にいることで、僕のように救われたかもしれないコジマをあの教室でひとりにするわけにはいかなかった。」

 

「涙がでるから悲しいというのであれば、たしかに僕はかなしかったけれど、そのどちらが先にあるかはもうわからなかった。」

 

「みんながおなじように理解できるような、そんな都合のいいひとつの世界なんて、どこにもないんだよ。そういうふううに見えるときもあるけれど、それはただそんなふうに見えるというだけのことだ。みんな決定的に違う世界に生きてるんだよ。最初から最後まで。あとはそれの組み合わせでしかない。」

「自分がされたらいやなことなんてみんな平気でやってるじゃないか。」「弱いやつらは本当のことには耐えられないんだよ。苦しみとか悲しみとかに、それこそ人生なんてものにそもそも意味がないなんてそんなあたりまえのことにも耐えられないんだよ。」「地獄があるとしたらここだし、天国があるとしたらそれもここだよ。ここがすべてだ。」「できることはできるだろ。したいことをすればいいさ。」

 

「僕には百瀬の言ったことはすべてがまったく馬鹿馬鹿しいかんがえかたのひとつにすぎないと心底からおもえることもあれば、どう考えてみても百瀬のいうとおりだとしか思えなくなることもあった。」

「コジマは僕に、できごとのすべてに意味があるのだと繰りかえし繰りかえし話してくれた。」「それからコジマは、会っても、会ってなくても、いつだって僕をできるだけ明るいところに連れ出そうとしてくれた。」

 

「最後まで、可哀想だって思いつづけなかったことよ」

 

「映るものはなにもかもが美しかった。しかしそれはただの美しさだった。誰に伝えることも、誰に知ってもらうこともできない、それはただの美しさだった。」

 

最後の一文が、胸にドーンって響いた。たったひとりの大切な友達を失った痛み。