スティル・ライフ

わからんけれど、村上春樹的な美しさを感じた。

謎に満ちた男の登場、どきどきしておもしろかった!

突拍子もないことを、確かな文体とクリアな描写で信じさせてくれる。

芥川賞にふさわしい、傑作。

「ぼくはいつも計画だけなんだ。計画は山ほどある。寿命が千年くらいあったら、はじから実行に移す。千年ない時には、よく考えて選ぶ。」

「十年先に何をやっているかを今すぐに決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、ぼくは何も決めなかった。社会は早く決めた奴の方を優先するらしかったが、それはしかたのないことだ。」

「大事なのは全体についての真理だ。部分的な真理ならばいつでも手に入る。それでいいのならば、人生で何をするかを決めることだってたやすい。全体を見てから決めようとするから、ぼくのようなふらふら人間が出来上がるのだ。」

「変な話をもちかける。変な話だけれども真剣に聞いてほしい。そういうことだ」

「しかし、その頃のぼくは妙な話をすべて歓迎するような心境にあった。自分と周囲の間にある一定の距離があって、何をするにせよぼくはその距離のところから周囲の世界を観察している。佐々井でさえ、その周囲の方に属した。そして、どんなことになってもぼくを巡る世界はぼくを傷つけることができない。そういう自信があった。」

「母親が下手だった。昔から、おいしいものが食べたい時は自分で作った」

 

ヤーチャイカ

「カンナもあるいは探査機かもしれない。カンナはもう別の世界を飛行している。時おり、彼が知らない光景について報告を送ってくる。やがて、彼と娘の距離はどんどん増して、電磁波が届くのにも数時間もかかるようになり、彼女がどんなに異様な風景を遠い惑星の上に見ても、それは彼には伝わらなくなる。彼女はその時、もう父親にではなくて星々の世界に所属するようになる。それでも、淋しくはないのだろう。そこには彼女を面白がらせるさまざまな現象があるだろう。」