生殖記

朝井リョウの最新作。

正欲以降、新たな境地に達してしまってる感がすごい、傑作です。生殖本能による進行という斬新な構造と、現代社会を見つめる解像度の高さが見事です。

成長とか、改善とか、ほんとに意味ないのにって思ってた自分と主人公が重なる。

どうでもいい、どうでもいいって、やり過ごすことばっかり考えてたな。誰が望んでるのかなって、思いながら、擬態しないと生きていけなかった。働くことが苦痛で、期待されることが億劫で。

全部遮断して、自分だけの幸福の尺度を持って、社会に関わることから降りてしまったな。

生物学的な生殖の話もおもしろかった。人間は暇だね。悩みは尽きないね。

他人の本質に介入することのできない令和の時代は、誰かと本音で語り合うことがとても難しく、うちへうちへと籠りやすいことだなあ。

時代はあてにしたくないけれど。

 

「全く腕に力を入れてない」

「考えてる感を出すためだけの、口からこぼれた時点ですでに死んでいる質問です」

「自分は同性愛個体だという自覚と同性愛個体は嫌悪されるべき存在であるという納得が、たったひとつの肉体の中でなんの矛盾もなく両立していたのです。」

「もし会社という共同体の縮小、維持を担う部署があれば喜び勇んでそこを志望したでしょうが、そんな部署があるわけがありません。」

「ヒトという種への思入れを感じます!」

「本当は皆、おりたいんじゃないのかな。」

「今、この瞬間も、牛タンは少しずつ解凍されているよ!」

「樹は、自分で色々と難しい方へと考えることが好きみたいですね。恵まれた個体特有の性質です。」

「下半身が着脱式だったら、男性器を選ぶ。」

「個体サイズの小さい方に凸の生殖器がついていても、いざ挿入となったときに相手に逃げられる可能性が大きいですから。」

「その中で尚成、このまま自分をどんな形にも新商品化しないという道をひとり歩んでいるわけです。」

「どうしたって、意味や価値からは離れられない。」

「生産性を手放せない。」

「マイノリティを差別しないのは、そういう時代だから。そうでない時代を構築した過去を本気で反省し謝罪し改善したいわけじゃなくて、なんかそういう時代になったから。」

「尚成、忘れず謙遜しておきます。」

「これはまずいです。完全に、他の個体たちの成長欲求による巻き込み事故にあっています。」

「全部自分のため」

「未来の自分が他者や社会に石を投げずに生きていられるように」

「否定形の意思表示って、誰にも見えないんですよ。」

「家庭と学校 共同体の原風景を信じる気持ちが勝ち越すのかも。」

「幸福度の基準が異なる。それは、生きる世界が変わるということです。」

「ヒトって見直すとか後退するとか、そういうことがすっごく苦手」

「一度文明が進んだらもうその前には戻れないっていうか、戻るわけにはいかないっていうか。」