対岸の彼女

角田光代らしい、素朴なエネルギーを持った作品。ナナコの人間性の描き方が魅力的。歳だけとっても、ちっとも大人になんてなれなくて、私は他人の何気ない言葉にまっすぐ傷つき、なにも出来ない赤ちゃんのような気持ちになってしまうことがある。人との関わりあいの中で、少しのことで、何度もマトモに打ちのめされてしまうのだ。

「無視もスカート切りも、悪口も上履き隠しも、ほんと、ぜーんぜんこわくないの。そんなとこにあたしの大切なものはないし。」
「ナナコという人のことを何も知らなかったのだと、ある驚きをもって葵は思った。」
「人の抱えてる問題を肩代わりしていっしょに悩んでやれるほど、あたし寛大じゃないよ。」
「おとうさん、なんであたしたちはなんにも選ぶことができないんだろう。」
「なんのために歳を重ねたのか。人と関わり合うことが煩わしくなったとき、都合よく生活に逃げこむためだろうか。」
「また出会うためだ。出会うことを選ぶためだ。」